古事記・日本書紀に登場する「神社・史跡を回る旅」の第14回は、宮崎県の高千穂町に所在する天岩戸神社です。
高千穂と言えば「天孫降臨」の場所としても有名ですが、今回は古事記の中で最も有名な神話の一つである天岩戸(あまのいわと)の舞台となった場所を祀る天岩戸神社に参拝しました。
旅程
この旅は原則として公共交通機関を利用することにしていますが、今回は後に述べる事情もあり、熊本まで飛行機で行って一泊し、翌日レンタカーを利用して現地に行きました。
【前日】(10時35分)伊丹空港発→ (11時50分)熊本空港到着・・・熊本城を見学した後に熊本市内で宿泊
【当日】 (9時)レンタカーで熊本出発→(10時48分)天岩戸神社西本宮に到着 → (11時)御神体「天岩戸」遥拝に参加→(11時15分)社務所で御朱印を依頼し、天安河原宮へ向かう→(11時半)天野安河原宮に到着→(11時40分)あまてらすの隠れCafeで休憩→(11時55分)御朱印を受領し、東本宮向かう→(12時5分)東本宮参拝→(12時30分)参拝終了し、阿蘇山に向かう
公共交通機関を利用する場合には、公式HPに熊本駅と宮崎県の延岡駅から出発する2つのルートが示されています。
○熊本駅・熊本空港→宮崎交通 特急バス「高千穂号」→高千穂バスセンター→路線バス→天岩戸神社
○延岡駅→宮崎交通 路線バス→高千穂バスセンター→路線バス→天岩戸神社
熊本出発の場合は所要時間が片道4時間弱と長いのがネックになりました。一方延岡駅発の所要時間は片道2時間前後と半分ですが、バスの間隔が約1時間半に1本と少ない点が気になりました。レンタカーだと熊本からでも2時間弱で行けますし、せっかく九州まで行くのであれば熊本城や阿蘇山などにも立ち寄りたいと思い、熊本市からレンタカーで行くことにしました。
古事記・日本書紀との関連
古事記によると、天上世界を統治する天照大御神(あまてらすおおみかみ)は、弟の湏佐之男命(すさのおのみこと)の乱暴狼藉に怒って天岩戸に籠ってしまいます。そのため世界は暗黒になり、万物の災いが一斉に起こります。そこで八百万(やおろず)の神が天安河原(あまのやすかわら)に集まって相談し、思神金(おもいかねのかみ)に思案させた方法で、無事天照大御神を天岩戸からお出しすることに成功します。
①まず、天照大御神が天岩戸に籠ったため、八百万の神が集まる場面を以下のように描いています。
古事記~【上つ巻】天照大御神と湏佐之男命~天の岩屋(あめのいわや)
このことを天照大御神は見て恐れ、天の石屋の戸を開き籠ってしまわれた。このために天上世界の高天原はまったく暗黒となり、地上世界の葦原中国も真っ暗闇となった。こうして夜ばかりが続いた。すると万物の神々の騒がしい声は、五月頃の蠅のように満ち拡がり、万物のわざわいが一斉に起こった。そこで高天原の八百万の神が、高天原の安の河原に集まり集まって、高御産日神の子の思金神に思案させた。
(引用文献)中村 啓信. 「新版 古事記 現代語訳付き」 (角川ソフィア文庫)
②そして、詳細は割愛しますが、様々な神様が準備を整えた後、最後に天宇受売命(あめのうずめのみこと)という女神が踊ると、八百万の神々がどっと笑い、それを不思議に思った天照大御神は天岩戸を開けて出ておいでになったため、世界には再び日の光が射して明るくなる場面が描かれます。ここで天照大御神が天岩戸に戻ることができないように、布刀玉命(ふとたまのみこと)が標縄(しめなわ)を張りますが、これが「しめ縄」の起源とされています。
古事記~【上つ巻】天照大御神と湏佐之男命~天の岩屋(あめのいわや)
天宇受売命が天の香山(かぐやま)の日影蔓(ひかげかずら)を襷(たすき)にして、真柝(まさき)という蔓草を髪飾りとして、天の香山の小竹(ささ)の葉を採り物に束ね、天の石屋の戸の前に桶(おけ)をふせて踏み鳴らし、神が乗り移った状態で、乳房をあらわに取り出し、下衣の紐を陰部まで垂らしたのである。すると高天原が震動せんばかりに、八百万の神々がどっと笑った。
この様子を天照大御神は不思議にお思いになり、天の石屋の戸を細めに開けて、石屋の内から声をおかけになった。 ~中略~ 天照大御神はますます不思議にお思いになって、そろそろと戸口から出ておいでになったその時、戸の傍らに隠れ立つ手力男神(たぢからおのかみ)が、その御手を握って引き出し申しあげた。布刀玉命(ふとたまのみこと)は標縄(しめなわ)を天照大御神の後ろの方に引き渡して、「これでもう石屋の内にお戻りにはなれません」と申した。こうして天照大御神がお出ましになった時に、高天原と葦原中国とに日の光が射して、おのずと照り明るくなった。
(引用文献)中村 啓信. 「新版 古事記 現代語訳付き」 (角川ソフィア文庫)
日本書紀の内容も概ね同様のため、詳細の紹介は省略します。
御祭神
西本宮 天照皇大神が御隠れになられた天岩戸(洞窟)を御神体として御祀りしている神社
御祭神:大日霎尊(おおひるめのみこと) 【天照皇大神の別称】
御祭神は実は西本宮も東本宮も天照大御神(あまてらすおおみかみ)ですが、お名前の表記が異なります。
西本宮の「大日霎尊(おおひるめのみこと) 」は、日本書紀では「大日孁貴(おおひるめのむち)」と表記されており、「日」が太陽を、「孁(め)」が女性をあらわすので、「偉大なる太陽の女神」という意味だそうです。
(出典:「寺田 惠子. 日本書紀 全現代語訳+解説 <1> 神代 ー 世界の始まり ー (グッドブックス))
東本宮 天照皇大神が天岩戸からお出ましになられた後、最初にお住まいになられた場所を御祀りしている神社
御祭神:天照皇大神(あまてらすすめおおみかみ)
こちらも御祭神は天照大御神(あまてらすおおみかみ)ですが、「皇(すめ)」という漢字が入っています。天照大御神は伊勢神宮の内宮の御祭神でもありますが、内宮の正式名称は「皇大神宮(こうたいじんぐう)」ですので、そちらと関係のある表記かも知れません。
天安河原宮
御祭神:思兼神(おもいかねのかみ)
八百萬神(やおよろずのかみ)
「天安河原(あまのやすかわら)」は、上述の古事記の引用にある通り、天照大御神が天岩戸に籠ってしまった時に、高天原の八百万の神が集まった場所です。「思兼神(古事記の表記は思金神)」は、その際に対応方法を思案することを任された神様ですが、その後も「葦原中国の平定」の段では高御産巣日神・天照大御神から意見を求められ、「天孫降臨」の段では邇々芸命(ににぎのみこと)の天降りに付き従い祭事を任されたといったように、様々な局面で登場する神様です。
参拝の記録
西本宮参拝
熊本からレンタカーで1時間50分程度で西本宮に隣接する有料駐車場(料金500円)に到着しました。駐車場には迫力のある手力男命戸取像がありました。手力男命(たぢからおのみこと)は、古事記の引用で紹介した通り、天照大御神が天岩屋の戸口から外を覗いた際に、御手を握って引き出した力の強い神様です。

駐車場を出てすぐ近くに入口があります。木でできた素朴な鳥居にしめ縄が張られているのが、しめ縄発祥の地ならではと思いました。

最初の鳥居を通って社務所を過ぎると、今度は石造りの鳥居が現れました。

境内に入ると東天紅という種の色鮮やかなニワトリが放し飼いになっていました。ウィキペディアによると、長鳴鶏の一つとして知られるニワトリだそうです。古事記の天岩戸の「思金神に思案させて、天の長鳴鳥を集めて鳴かせた」という一節に関連すると思います。

ここが入口の門ですが、千木と鰹木があるのは本殿のようで珍しいと思いました。

拝殿は少し変わった形をしていて、正面の屋根の左右に小さな屋根が配置されているのが特徴的です。右の端に後に説明する御神体「天岩戸」遥拝の入り口がありました。

早速こちらでお参りをしました。

拝殿から見て斜め左に御神木の「招霊(おがたま)の木」がありました。上述の古事記の天岩戸神話の中で天宇受売命(あめのうずめのみこと)が舞を舞った際に、手に持って舞われたのがこの「招魂の木」の枝だと伝わっているとのこと。

西本宮~御神体「天岩戸」の遥拝殿へ
西本宮の御神体は「天岩戸」ですので、本殿はありません。御神体「天岩戸」は神職の方に案内して頂き、拝殿裏の遥拝殿から見学が可能です。
参拝が終了すると案内開始時間の11時少し前だったので、集合場所の休憩所に行きました。以下の地図が集合場所と見学ルートになります。見学は30分間隔で行われているので、どの時間に行ってもさほど待つことなく参加できると思います。


今回の参加者は7-8名でした。ご案内頂いた神職の方に大麻(おおぬさ)を振ってお祓いをしていただいた後に、拝殿の右手の入口から遥拝殿に向かいました。

残念ながらここからは撮影禁止ですのでご神体天岩戸の写真はありませんが、眼下に流れる岩戸川の対岸の断崖の中腹にあり、厳かな雰囲気の中でご神体に向かって皆でお参りをしました。
ひとつ驚いたのは天岩戸に注連縄(しめなわ)が張ってあったことで、よくこんな断崖に張ったと驚きましたが、神職の方の説明によると、毎年冬至の日に張り替えの神事を行っているとのことでした。

出口は拝殿に向かって左側にあり、神楽殿の前で解散となりました。ご案内頂いた神職の方、ありがとうございました。とても雰囲気のある場所ですので、行かれた方には参加をお勧めします。

御朱印を頂く
以上で西本宮のお参りは終了したので、次に天安河原宮に行く前に社務所で御朱印をお願いしました。

御朱印帳を社務所で渡すと、次にどこに行くかと聞かれたので、天安河原宮と答えると番号札を渡され、天安河原宮からの帰りに番号札を呈示すると出来上がった御朱印を頂きました。「天」の字が「岩」の上に掛かって天岩戸のように見えるのは私だけでしょうか。

天安河原宮参拝
続いて天安河原に向かいました。西本宮から10分ほど歩きます。

西本宮を出ると暫く車道の脇を歩きますが、遊歩道に入ると雰囲気が一変します。

岩戸川の清流に沿って、渓流の音を聞きながら歩いていると、別世界に入ったような気分になります。


天安河原宮に到着しました。 平日にも拘わらずかなりの賑わいがありました。

洞窟に入ると天安河原宮の鳥居の奥に拝殿があり、お参りしました。

天安河原宮から外を見た景色も神秘的なものでした。

「あまてらすの隠れCafe」で休憩
西本宮への帰り道に「あまてらすの隠れカフェ」というこの場所にぴったりの名前の食事処がありましたので、軽く休憩しました。

中に入ると岩戸川を見下ろす席に座ることができます。食事もできますが、昼食には少し早く、冷たいものが食べたかったので、「もこもこソフト」の「かまいり茶あずきミックス」を頂きました。


東本宮参拝
最後に向かったのは天岩戸からお出になられた天照大神が最初にお住まいになられた場所をお祀りする東本宮です。西本宮から歩いて5分ほどで入口の鳥居に到着しました。
こちらに来てわかったのですが、鳥居の左手に駐車場がありこちらは無料でしたので、西本宮からは車で来た方がよかったと少し後悔しました。

一つ目の鳥居をくぐると天岩戸の前で踊った「天鈿女命(あめのうずめのみこと)」の像がありました。

二つ目の石造りの鳥居を過ぎると、昇りの階段が続きます。実は東本宮に行くか少し迷ったのですが、西本宮や天安河原宮と違い参拝者が極めて少なく、静けさに包まれて歩くことができるため、来て本当によかったと思いました。

階段を一番上まで登ると今度は木でできた3番目の鳥居がありました。

東本宮の拝殿は、高く繁る木々に囲まれた落ち着いた雰囲気の場所でした。

拝殿の右手から裏手に廻ると、湧水が流れ出している御神水がありました。

御神水から更に進むと、七本杉に到着しました。数えると7本以上あるように見えますが、根が7本繋がっている杉とのことです。この旅の最後を飾るにふさわしい、神秘的な光景でした。

以上で、天岩戸神社の参拝は終了し、夕方の飛行機出発まで時間があったので、阿蘇山の草千里に向かいました。
天岩戸神社は三つの宮にそれぞれの魅力があり、木々と渓流と岩の配置がすばらしい、何度でも行きたくなるような場所でした。

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